クローブ犬は考える

The style is myself.

カレーキャラバンがめぐった東京

ひととであい まちでつくる 旅するカレー  これまでに、全国の80か所以上をめぐりながら、出かけた先の食材をつかってカレーをつくった。東京都では、16回実施している。*1

調理器具とスパイスをもって、旅に出る。出かけた先で食材を買い、店の軒先や駐車場、空き地などを借りて、鍋を炊く。通りすがりの人に野菜を刻んでもらったり、スパイスの調合を手伝ってもらったり。話をしているあいだに、暮らしのこと、まちのことがわかってくる。もちろん、いきなり「よそ者」が現れてカレーをつくりはじめるのだから、訝しげに遠くから見ている人もいる。

大きな鍋でカレーを煮込んでいると、やがてスパイスの香りが漂いはじめる。カレーができあがるころには、どこからともなく人が集まってくる。遠くから見ていた人も、いつの間にか列に並んでいる。一人ひとりにカレーのお皿を手渡す。立ったまま食べる人もいれば、辺りにちょうどいい場所を見つけて腰かける人もいて、わずかな時間だが、路上がみんなのものになる。賑やかで楽しいひとときが終わると、撤収して旅を終える。

アートプロジェクトの一環で、墨田区の空き店舗でカレーをつくったことがきっかけになって、カレーキャラバンが動きはじめた。8年でおよそ80回。だいたい月に1回というペースで続けてきた。メンバーは二人ともカレーは大好きだが、調理のプロではない。素朴に、コミュニケーションを「味わう」ために、この旅を楽しんできたのだ。カレーキャラバンをとおして、多くのまちを知ることができた。友だちも増えた。のんびりと、まずは100回を目指して続けようと話している。

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2019年9月14日(土)|長野県北佐久郡軽井沢町

昨年、夏の終わりに軽井沢でカレーをつくった。その後、仕事が忙しくなってドタバタしているうちに年が明け、まもなく新型コロナウイルスがやって来た。そのせいで、半年間、カレーキャラバンは休眠状態である。少しずつ暖かくなって、「外」に出かけたくなる時分に“ステイホーム”だと告げられて、とくにこの数か月は「内(家)」で過ごしている。仕事は、オンラインになった。

そもそも、カレーキャラバンは「密」な関係によって成り立っている。一緒におしゃべりをしながら鍋をかき混ぜる。大きな鍋から一つひとつのお皿にカレーをよそい、身体を寄せ合ってほおばる。

もちろん、カレーキャラバンだけではなく、フィールドワークも同じだ。誰かと一緒にまちを歩く。人と出会う。ことばを交わし、一緒にテーブルを囲む。沈黙しながら、距離を置いたままで、まちや人びとの暮らしを理解することなどできるはずがない。これまで、特別なことをしているつもりはなかった。あたりまえ過ぎて疑うことのなかったフィールドワークへの想いが、あふれている。(文・加藤文俊)

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100+20人の東京展(2019-2020 South編)
人・建築・都市を記憶する レンズ付フィルムによる写真展

  • 日時:2020年7月9日(木)〜9月17日(木) *開館時間は要確認
  • 会場:GalleryA4(〒136-0075 東京都江東区新砂1-1-1 竹中工務店東京本店1F)

*1:このテキストは、「100+20人の東京」展のパネル用に書いたものです。