クローブ犬は考える

The style is myself.

「ゆるさ」があれば(2)

簡単に真似できる

2014年9月7日、『つながるカレー』出版記念のトークイベント*1のときに、ナガオカケンメイさんから質問があった。この先、カレーキャラバンの活動を真似する人たちが出てきたらどうするのか…というものだ。その場では、どうこたえるか迷ったのだが、じつはこたえは(ぼく自身としては)ふたつある。

まず、「どうぞどうぞ」というのが、ひとつ目のこたえだ。見知らぬまちに出かけて食材をさがし、カレーをつくって無料で配り、みんなで食べる。ぼくたちの活動は、それだけのことなのだ。難しいことはではない。事前に綿密な計画があってはじまったわけではないが、「楽しいから」「好きだから」という理由だけで2年半が過ぎて、いろいろな場所で、すでに30回近くカレーをつくった。たくさんの人に出会った。この楽しさを、ぼくたちで独占するつもりはない。

そもそも、真似をされて困るほどのことはしていないのだ。真似をするのは簡単だ。カレー好きの人は数え切れないほどいるし、市販のルーを使わずに、スパイスからカレーをつくっている人もたくさんいる。だから、たまには「外」に出て、カレーをつくってみることをぜひ勧めたい。場合によっては、カレーでなくてもいいのかもしれない。バーベキューでも豚汁でも、みんなで鉄板や鍋を囲みながら語らうためのやり方は、たくさんあるはずだ。とても、楽しい。

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簡単に(真似)できるということは、「ゆるさ」の強みだ。「どうぞどうぞ」から、さらにもう一歩すすんで、真似されることを歓迎し、カレーキャラバンとおなじような活動がどんどん派生すればいいとさえ思う。まちなかに(仮設的とはいえ)「居心地のいい場所(グッド・プレイス)」をつくるための方法として取り組んでいるのだから、何よりも、多くの人に関わってもらえるようになればいい。心理的な抵抗感や技術的な制約などを気にすることなく、通りすがりの人でも気軽に参加できる場づくりが理想だ。だから、ぼくたちの方法、そして実践の経験は、できるかぎりオープンにしながらすすめている。言うまでもなく、カレーづくりについては、心配は少ない。たいていの人はカレーが好きだし、基本的なつくりかたはすでに知られているのだ。

真似をされて困るのは、守るべき秘伝のレシピやノウハウなど、いわゆる「企業秘密」がある場合だ。ぼくたちのカレーづくりは、味を極めようとしているわけではないし、これで商売をしようということでもない。損得勘定なしの活動なので、〈真似をする=真似をされる〉という考えかた自体がなじまないのかもしれない。カレーキャラバンのような活動をしている人と、どこかのまちで出会えたら、きっと楽しいだろう。「屋台村」のような感じで参集し、ひと仕事終えたら解散する。ぼくたちの活動をさらに楽しいものに変えていくためにも、「どうぞ真似してください」というのがこたえになる。

 

簡単には真似できない

いま述べたとおり、「どうぞどうぞ」というのがカレーキャラバンの精神だ(と思う)。そのいっぽうで、簡単に真似できないのかもしれないという想いもある。「真似できないでしょう」というのが、もうひとつのこたえだ。誤解のないように書いておくが、それは、ぼくたちが、活動そのものに絶大なる自信をもっていて、「できるものならやってみろ」という挑戦的な態度でいるということではない。そう簡単に真似できないのではないか…と思うのは、まさに、ぼくたちが毎回毎回のカレーづくりをきちんと計画せずにすすめているからだ。「ゆるさ」があるからこそ、真似をするのが難しいように思えるのだ。

3人が出会い、みんなでカレーをつくるというのは、唯一無二の体験だ。『つながるカレー』にも書いたが、ちいさなチームなのだ。そして、ゆるやかに役割分担がおこなわれながら、カレーができあがる。いろいろな問題に直面しても、その都度、みんなで考えると「なんとかなる」のである。とにかく「なんとかなる」と思えるのだ。

ぼくは、「墨東大学」*2で、3人でペンキ塗りをしたことを、いまでもときどき思い出す。当時、プロジェクトのために借りていたキラキラ橘商店街の空き店舗の壁にペンキを塗った。集合してから、段取りについてきちんと相談することもなく、ペンキ塗りがはじまった。床を掃除する、マスキングテープで養生する、ペンキの準備をする。一人ひとりが、なんとなくじぶんのやりたいこと(やるべきだと思ったこと)にとりかかった。壁の左側から塗る、右側から塗る、下から塗る。黙っているわけではなく、他愛のないおしゃべりしながらローラーを上下させているのだが、ペンキ塗りのすすめかたについては、ほとんどことばを交わさない。

いま思えば不思議な感じさえするのだが、いちいち細かいことを話さなくても、滞りなくペンキ塗りがすすんだ。そして、ぼくは(木村さんたちも、たぶんそうだと思う)、それが、とても心地よかった。理由はよくわからないのだが、木村さんたちと仕事をするときは、ストレスを感じることがない。いつも、気持ちよくコトがすすむのだ。これほど尊ぶべき出会いは、めったにないのかもしれない。そう思うと、やはり「簡単には真似できないでしょう」と、こたえることになる。いささかの自己満足であることは自覚しているつもりだが、いま、カレーキャラバンの活動が熱を帯びていることはたしかなのだ。 

◎その後、書評を書いていただいた。ありがとうございます。
『つながるカレー』赤字でいいじゃない!何より楽しむこと - HONZ

*1:「ゆるさ」があれば(1) - クローブ犬は考える

*2:2010〜2011年度に実施したプロジェクト。カレーキャラバンのきっかけをつくった。http://bokudai.net/