クローブ犬は考える

The style is myself.

カレーキャラバンのあゆみ

2024年3月28日(木)

カレーキャラバンの精神を引き継いで「カリーキャラバン」をはじめるにあたって、これまでの旅路をふり返ってみた。数えなおしたら、(番外編を除いて)80回だった。
(くわしくは、カレーキャラバンのサイトにある「アーカイブ」を参照。)* ▲は番外編。

カレーキャラバン(2012年3月〜2024年3月)

カレーキャラバン(2012年3月〜2024年3月)|数えなおしたら、(番外編を除いて)80回だった。

フォース・シーズン(2018年5月〜2024年3月)
  • 2019年9月 ほっちのごきげんカレー(軽井沢町)
  • 2019年6月 おかげさまで できましたカレー(ODDII)(奥州市)
  • 2019年4月 平成最後のサクラカレー(富士吉田市)
  • 2019年3月 ナナイロカレー(北区)
  • 2018年11月 カミンコ カレー(静岡市)
  • 2018年8月 夏の終わりの無花果カレー(西脇市)
  • 2018年7月 はちのへ サバカレー(八戸市)
  • 2018年6月 カメリアカレー(松戸市)
  • 2018年5月 ODD(おかげさま de できました)カレー(奥州市)
  • 2018年5月 ほんまるフォースカレー(陸前高田市)
サード・シーズン(2017年6月〜2018年4月)
  • 2018年4月 KADODE(新年度だからね)カレー(川越市)
  • 2018年2月 カレーおでん(いろんなみかた編)(横浜市)▲
  • 2018年1月 いわぶちコトヨロ カレー(北区)
  • 2017年11月 オードリー(おおどおり)カレー(横浜市)
  • 2017年11月 嵐のピクニックカレー(松戸市)
  • 2017年10月 FUKUI★キントキ カレー(福井市)
  • 2017年10月 イモニジャナクテ カレー(山形市)
  • 2017年8月 気がつけば キーマカレー(松陰神社スペシャル)(世田谷区)
  • 2017年7月 ハロー!! もうすぐ なつやすみカレー(千葉市)
  • 2017年6月 ココからはじまる なかみなとカレー(茨城県)
セカンド・シーズン(2016年9月〜2017年5月)
  • 2017年2月 帰ってきタラ フキデチョウカレー(盛岡市)
  • 2016年11月 土からありがと根カレー(常陸太田市)
  • 2016年11月 レインボウ☆トリゴボウ☆明日へのキボウカレー(高萩市)
  • 2016年11月 カレー No. 60(常陸大宮市)
  • 2016年10月 丘あんこうカレー(北茨城市)
  • 2016年10月 きやまフューチャー★カレー(基山町)
  • 2016年10月 ギュギュッとしばうらハウスカレー(港区)
  • 2016年10月 だいご Oh!しゃもカレー(大子町)
  • 2016年9月 ひたちたがたこカレー(常陸多賀市)
ファースト・シーズン(2012年3月〜2016年5月)
  • 2016年5月 まつどカレー2(松戸市)
  • 2016年3月 4色のにんじんをどうぞカレー(大東市)
  • 2016年2月 まるたま氷点カレー(函館市)
  • 2016年2月 だんちカレーⅡ(朝霞市)
  • 2016年2月 カレーおでん こたつとみかん編(横浜市)▲
  • 2016年1月 おしゃれの ルミーカレー(神戸市)
  • 2015年12月 お客さん、終点ですよカレー(上田市)
  • 2015年11月 ねぇ、どこ? カレー(品川区)
  • 2015年10月 いぶきのいぶきカレー(米原市)
  • 2015年10月 金八カレー(館山市)
  • 2015年10月 マコモとアオリイカのグッドグッドカレー(氷見市)
  • 2015年9月 しかのごろごろカレー(鹿野町)
  • 2015年9月 OH! SANBASHIカレー(横浜市)▲
  • 2015年8月 ばりうまバリューカレー(土佐山田市)関西ロード2015
  • 2015年8月 ただいま、仏生山カレー(仏生山)関西ロード2015
  • 2015年8月 トロトロトロールカレー(東村山市)
  • 2015年7月 大島やさいカレー(伊豆大島)
  • 2015年6月 クルスカリー(鎌倉市)
  • 2015年5月 かわぐちキュポラカレー(川口市)
  • 2015年4月 株立カレー(杉並区)
  • 2015年3月 やさとカレー(石岡市)
  • 2015年3月 春の一乗寺カレー(京都市)
  • 2015年2月 まりこカレー(静岡市)
  • 2015年1月 だんちカレー(横浜市)
  • 2014年12月 かぶらカレー(氷見市)
  • 2014年11月 うままカレー(南相馬市)
  • 2014年9月 串本カレー(串本町)
  • 2014年9月 “つながる”マルノウチカレー(千代田区)
  • 2014年8月 うまうまうまきカレー(小豆島)関西ロード2014
  • 2014年8月 仏生山カレー(仏生山)関西ロード2014
  • 2014年8月 あわじミーツカレー(淡路島)関西ロード2014
  • 2014年6月 彦根カレー(彦根市)
  • 2014年6月 ねりまカレー(練馬区)
  • 2014年5月 氷見カレー2(氷見市)
  • 2014年4月 高尾カレー(八王子市)
  • 2014年3月 うのきカレー(大田区)
  • 2014年2月 もりおかカレー(盛岡市)
  • 2014年1月 いわきカレー(いわき市)
  • 2013年12月 Fabカレー3(鎌倉市)
  • 2013年11月 釜石 カレー考(釜石市)▲
  • 2013年10月 ほくとカレー(北杜市)
  • 2013年8月 松戸カレー(松戸市)
  • 2013年8月 Fabカレー2(横浜市)
  • 2013年8月 のじまカレー(横浜市)
  • 2013年7月 田辺カレー2(田辺市)
  • 2013年6月 国立カレー(国立市)
  • 2013年5月 氷見カレー(氷見市)
  • 2013年3月 墨東カレー(墨田区)
  • 2013年2月 やぶきカレー(矢吹町)
  • 2013年2月 カレーおでん「フィールドワーク展Ⅸ おでん」(品川区)▲
  • 2012年12月 Fabカレー(鎌倉市)
  • 2012年10月 みずつちカレー(新潟市)
  • 2012年8月 タナベカレー(田辺市)
  • 2012年7月 コモロカレー(小諸市)
  • 2012年5月 カミフルカレー(新潟市)
  • 2012年4月 墨大カレー2(墨田区)
  • 2012年3月 墨大カレー(墨田区)

カレーからカリーへ。

あの疾走感

2012年3月17日、墨田区のキラキラ橘商店街の一角でカレーをつくったのがきっかけで、「カレーキャラバン」がはじまった。あれから、ちょうど12年。まちかどで鍋を炊いて、みんなでつくってみんなで食べる、このシンプルで大切なことが「一番やってはいけないこと」になった。近づいてはいけない、しゃべってはいけない、一人で(独りで)食べよう。ようやく、一緒に飲んだり食べたりする時間が戻って来たものの、「カレーキャラバン」の活動は休眠中だ。

もちろん、長く続けていると、いろいろなことが起きる。いうまでもなく、「カレーキャラバン」のほかにも、やることがたくさんあるし、さまざまな場面での役割も変わる。ぼくは、キャラバンをはじめたころは40代(ギリギリ、ほぼ50歳)だったが、仕事が少し忙しくなって、さらに「ステイホーム」で窮屈な時間を過ごしているうちに還暦をむかえてしまった。でも、さすがに、このままではいられない。

あらためてふり返ってみると、あの疾走感はすごかった。とくに最初の数年はハイペースだった。だいたい、月に1回のペースで出かけていたし、(ちょっとじぶんでも驚きだが)毎週末という月もあった。とにかく楽しくて、意味や必要性などについて問いかける人はあまりいなかった。とてもシンプルなやり方で「場所」ができて、そこで人と出会い、おしゃべりをする。何をしているのか、見ればすぐわかる。コミュニケーションが生まれる「場所」への愛着が、つぎのカレーづくりへと駆り立てた。

ぼく自身は、大学教員という肩書きを持っているので、やがて「これは食をとおした地域活性の試みですか」などと聞かれるようになった。むしろ、意識的に大学での活動とは切り離していたのだが、「公共空間のあり方を考える社会実験」のような文脈で理解されることもあった。ヒドいときには、いっさい取材もせずに「学生と一緒にカレーでまちを元気に」などという見出しで地方紙に掲載されたこともある。
「カレーキャラバン」については、たまに学生が手伝ってくれたり、カレーを食べに来たりということはあったが、できるかぎり大学の仕事や調査・研究とはちがう位置づけをしていた。そもそも、あの疾走感のただ中に身を置いていると、カレーをつくる意味や必要性を問うのは無粋なことなのだ。(というより、カレーのことに集中しているので、そんな余裕はない。)

もちろん、説明を求められるようになって、少し(後付けのようにして)理屈を整理することもあった。そして、「ステイホーム」の体験を経て、「ともに食べること」の大切さは実感している。食べるだけでなく、一緒に野菜を刻み、鍋を囲んでおしゃべりするような時間は格別だ。じつは、とてもいい活動なのだと、自画自賛の気分になっている。

地球を4周ほど

2012年の初夏、「カレーキャラバン」の活動が本格化していく予感だったので(そしてちょうど車検だったので)、大きなクルマに買い換えた。それから、クルマにスパイスと調理器具を載せて、いろいろな場所に出かけた。キャラバンの道連れに、ラクダのようなクルマだ。スピードも馬力も大したことはないが、荷物をたくさん積んで遠出するのにちょうどいい。12年経って、走行距離は16万キロ。地球を4周したことになる。最近は、点検に出すたびにあちこちに不具合が見つかって(酷使してきたので、あちこちガタが来ているということだろう)、そろそろつぎにバトンタッチということも現実的になってきた。


写真は2024年3月15日(金)まもなく12年。たくさん走った。

そして、『つながるカレー:コミュニケーションを「味わう」場所をつくる』(フィルムアート社, 2014)を出版してから、まもなく10年である。あれから、何を考えたのか。とくに「ステイホーム」を経て、これから何をすればいいのか。

12年目を終える節目で、あたらしく「カリーキャラバン」(ニュー・シーズン)をはじめることにした。「カレーキャラバン」は、正式に終了したわけでもなく、グループが解散したということもない。「無期休業」のようなもので、いずれまた、いつか、どこかで「カレーキャラバン」で集う日が来ることを信じている。その日のために「カレーキャラバン」は、そのまま。なにしろ、100回は続けようと話していたのだから、まだ続きはあるだろう。
「カリーキャラバン」は、「人とであい まちでつくる 旅するカレー」という精神を引き継いでゆく。解散はせずに、ソロ活動をはじめるようなものだ。具体的なことは決めていないが、少しずつ準備をすすめよう。

そんなつもりであれこれと考えていた矢先、ほんの数日前にメッセージが届いた。「カレーキャラバン」について取材をしたいとのことだ。「遅まきながら…」この取り組みを知ったと書いてあったが、全然、遅いなどということはない。地味な活動ではあるものの、12年前から、COVID-19に邪魔をされるまでは、熱をもって向き合ってきたのだ。一つひとつの場所で、設営から撤収まで、80回(番外編を除く)のカレーづくりの体験は身体にしみ込んでいる。それなりに記録も残してある。できるだけ「やりっぱなし」にせずに続けてきたことで、また見つけてもらうことができた。誰かがどこかで見ている(かもしれない)という淡い想いを抱いていれば、こういうことは、たまに起きるのだと思う。「たまに」だからこそ、なおさら「カリーキャラバン」をはじめる勇気が出た。背中を押された、と思った。

まずは、「カリーキャラバン」がはじまるというお知らせを。

引き続き、よろしくお願いします。あたらしくウェブもつくろうと思っていますが、このブログ『クローブ犬は考える』は、このまま書きます。この記事は、なんと3年ぶり。

「ゆるさ」があれば(10)

テイクアウトで目覚める

まもなく、9年目が終わろうとしている。事情が事情なのでしかたないのだが、2020年は一度も鍋を囲むことができなかった。オンラインでカレーパーティー(それぞれがカレーを用意して、画面越しにおしゃべりしながらランチを食べる)を開いたこと、そして「100+20人の東京展(2019-2020 South編)」という展示でこれまでに東京でおこなったカレーキャラバンのようすを紹介する機会があったこと(→ カレーキャラバンがめぐった東京 - クローブ犬は考える)。2020年の活動は、このくらいで終わってしまった。この文章を書いているいまも、「緊急事態宣言」が発出されている。春めいてきたので、少しずつでも戻れるように、外に出かけることができるように、前向きに考えたい。

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2020年7月24日(金)|カレーキャラバン オンライン用背景(by リーダー)

家で過ごす時間が長くなって、テイクアウトで食事を調達する機会も増えた。せっかくなので、とくにランチは近所であれこれとテイクアウトメニューを試すようにしている。厳しい状況のなか、いろいろな店が工夫をしながらテイクアウトのあり方を探っているようだ。全般的にはちょっと割高な感じもするが、わずかながらも支援しようという気持ちになっている。

つい最近、「TOKYO MIX CURRY」を試してみた。偶然、店のチラシからウェブにたどり着いたのだが、なかなかよくできている(と思った)。まずスマホに専用のアプリをダウンロードし、そのアプリをつかって注文する(アプリをつかわないと発注できない)。基本はルーとごはんの量、トッピングをえらぶという感じ(あとでウェブの記事を読んだら、「サブウェイ」がヒントになっていると書いてあった)。おすすめの組み合わせもいくつかあるので、それをえらんでから量を調整したりトッピングを加えたり(なくしたり)すればいい。受け取りたい店舗と時刻を指定し、クレジットカードで決済する。そこまで、ムダのない流れだ。
注文してからスマホの画面を眺めていると、少しずつステータス表示が変わっていった。注文が通ったという状態から調理中に変わり、準備ができて受け取り可能という表示に。(実際にはそのようすを確認することはできないわけだが)あらかじめ指定した時刻に合わせて調理が開始され、できたて受け取ることができるという感覚が、画面をとおして伝わってくる。

指定した時刻に店についた。店といっても、ランチタイムの数時間だけ「間借り」をしている店舗だ。表には「TOKYO MIX CURRY」の看板が立っている。夜は鉄板焼きの店(ワインバー)だが、昼間はテイクアウトとデリバリー専門のカレーの店になるというわけだ。店に入ると、ぼくが注文したカレーをちょうど包んでいるところだった。この「間借り」は、入り口のわずかなスペースとテーブル、イスくらいのもので、厨房をつかっているわけではなかった。加熱・保温用のヒーターの上に寸胴がのっていて、傍らにはトッピングの具材が入った容器が並んでいる(まさに「サブウェイ」っぽい感じ)。注文はすべてアプリ経由で届くので、そのオーダー(カスタマイズ)どおりにテイクアウト用の容器によそって、客が来るのを待つという流れだ。

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取材をしたわけではないので、勝手な理解で書いているが、おそらくは調理は別のキッチンでおこなわれていて、現場ではそれを加熱して注文に応じて盛り付ける。キッチンカーと同じような感じだ。キッチンカーにかかわる手続きや、維持・管理、駐車スペースの確保などを考えれば、この「間借り」のやり方はスマートだ。買うほうも、列に並んで待つこともない。
受け取るさいには食べ方の説明があって、割引のクーポンを渡された。初めてだったので「たっぷりお野菜」をちょっとだけアレンジして注文した。思っていたよりボリュームがあって、美味しかった。屋号どおり「ミックス」して食べるカレーなので、トッピングの組み合わせを考えたり、家にあるスパイスで「味変(あじへん)」したり、いろいろな楽しみ方がありそうだ。

テイクアウトのスタイルとして、なかなかよく設計されていると関心しつつ、それよりも、「間借り」のスペースで寸胴からカレーをよそっている光景を見て、懐かしさがこみ上げてきた。まちなかに仮設のキッチンをつくって、カレーをつくる。これこそ「カレーキャラバン」のはじまりだったのだ。9年前のあの日、墨田区の空き店舗で鍋を炊いた。その情景が思い出されて、目覚めた。2019年の9月に軽井沢でカレーをつくってから、「旅」の器財は箱にしまったままだ。

旅は道づれ

たんにテイクアウトのお試しくらいの気持ちだったが、「TOKYO MIX CURRY」の体験で、ムズムズと何かが覚醒するようだった。もちろん、さすがに「フルバージョン」を再開することはできない。
「カレーキャラバン」の楽しみは、クルマに道具を載せるところからはじまる。ドライブして(ときには数百キロ)、逗留地に着いたら荷物を降ろして設営し、買い出しに行く。まちかどで調理をしていると人が近づいてくる。一緒におしゃべりをしながら野菜を刻み、鍋を囲んでまったりと過ごす。カレーができる頃には、さらに人が集まってきて、みんなに配って食べながら日が暮れる。撤収して、あれこれとクルマで話しながら帰る。この一連の流れが、やめずに(やめる理由が見つからずに)続けてきた「フルバージョン」だ。
あらためてふり返ると、「カレーキャラバン」は「密」な関係を前提に成り立ってきた。というより、スパイスの力を借りて、「疎」だったところを「密」に変える活動だといえるかもしれない。いまの状況で、できることは何か。それを考えることは、「カレーキャラバン」の本質をとらえなおすことにつながるはずだ。

まず、「カレーキャラバン」が面白いのは、仮設であることと無縁ではない。これまでの80回をこえる「旅」は、まさに「間借り」体験の積み重ねだった。駐車場、広場、公園、店の軒先など、いろいろな場所を借りてカレーをつくった。それぞれの場所でのエピソードが、いくつも記憶に残っている。くり返しているうちに、設営と撤収にも慣れてきた。上手に片づければ、さほど負担を感じることなく次につながることもわかった。つまり、「間借り」を前提とする活動に求められるのはモビリティ(移動性)なのだ。そのために、道具を厳選したり現地調達したり、いろいろな工夫もできるようになった。

もうひとつ、ぼくたちの活動を成り立たせているのは、分け合う姿勢だ。大きな鍋でつくったカレーを、大勢で分け合う。一つの鍋をみんなで囲んで、(スパイスの香りがする)同じ空気を吸い込み、同じ地面に立つ。つまりそれは、一緒に過ごすための場所を分け合うことだといえる。もちろん同じ場所に「いる」ことは、時間を共にするということだ。

では、どのようにして「カレーキャラバン」の活動を再開すればよいのだろうか。具体的に考えるときに思い浮かぶのは、「一緒に鍋を囲むのは誰か」という問いだ。これまでは、行きずりの人もふくめ、誰でもカレーづくりに加わることができるようなやり方をつくってきた。準備だけ手伝って、カレーができあがる頃にいなくなる人もいれば、逆に、カレーを配るタイミングでいきなり現れる人もいた。出入りは自由、いちいち挨拶することも、名前を聞くことさえない。そんな関係で、一つの鍋を囲んでいた。

f:id:who-me:20190914152803j:plain2019年9月14日(土)|カレーキャラバン(軽井沢編)

いまでこそCOVID-19の騒ぎで動きが制限されているが、そもそも「カレーキャラバン」は共同で調理するという活動なので、気を遣うべきことは多い。リーダーもぼくも「食品衛生責任者」の講習を受けて、食中毒やアレルギーのことについて勉強した。手伝ってくれる人には、手指の消毒をお願いする。いろいろなことに注意しながら、調理にはじまって食べるところまで、みんなが「道づれ」になるのが基本だ。もちろん、何かあったときに備えて、参加者に誓約書を書いてもらうわけではない。「自己責任」ということばで対応するつもりもない。
この騒ぎが落ち着いたら、カレーをつくろう。まずは、ごく身近なところから。〈甘える=甘えられる〉〈許す=許される〉関係が成り立つ(少なくとも、そう思わせる)くらいの「近い」ところから。
黙ってカレーをつくり、黙って食べる。それでもよいはずだ。まずは、もう一度「旅」を実感すること、そして時間と場所を分け合う姿勢を整えることだ。

カレーキャラバンがめぐった東京

ひととであい まちでつくる 旅するカレー  これまでに、全国の80か所以上をめぐりながら、出かけた先の食材をつかってカレーをつくった。東京都では、16回実施している。*1

調理器具とスパイスをもって、旅に出る。出かけた先で食材を買い、店の軒先や駐車場、空き地などを借りて、鍋を炊く。通りすがりの人に野菜を刻んでもらったり、スパイスの調合を手伝ってもらったり。話をしているあいだに、暮らしのこと、まちのことがわかってくる。もちろん、いきなり「よそ者」が現れてカレーをつくりはじめるのだから、訝しげに遠くから見ている人もいる。

大きな鍋でカレーを煮込んでいると、やがてスパイスの香りが漂いはじめる。カレーができあがるころには、どこからともなく人が集まってくる。遠くから見ていた人も、いつの間にか列に並んでいる。一人ひとりにカレーのお皿を手渡す。立ったまま食べる人もいれば、辺りにちょうどいい場所を見つけて腰かける人もいて、わずかな時間だが、路上がみんなのものになる。賑やかで楽しいひとときが終わると、撤収して旅を終える。

アートプロジェクトの一環で、墨田区の空き店舗でカレーをつくったことがきっかけになって、カレーキャラバンが動きはじめた。8年でおよそ80回。だいたい月に1回というペースで続けてきた。メンバーは二人ともカレーは大好きだが、調理のプロではない。素朴に、コミュニケーションを「味わう」ために、この旅を楽しんできたのだ。カレーキャラバンをとおして、多くのまちを知ることができた。友だちも増えた。のんびりと、まずは100回を目指して続けようと話している。

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2019年9月14日(土)|長野県北佐久郡軽井沢町

昨年、夏の終わりに軽井沢でカレーをつくった。その後、仕事が忙しくなってドタバタしているうちに年が明け、まもなく新型コロナウイルスがやって来た。そのせいで、半年間、カレーキャラバンは休眠状態である。少しずつ暖かくなって、「外」に出かけたくなる時分に“ステイホーム”だと告げられて、とくにこの数か月は「内(家)」で過ごしている。仕事は、オンラインになった。

そもそも、カレーキャラバンは「密」な関係によって成り立っている。一緒におしゃべりをしながら鍋をかき混ぜる。大きな鍋から一つひとつのお皿にカレーをよそい、身体を寄せ合ってほおばる。

もちろん、カレーキャラバンだけではなく、フィールドワークも同じだ。誰かと一緒にまちを歩く。人と出会う。ことばを交わし、一緒にテーブルを囲む。沈黙しながら、距離を置いたままで、まちや人びとの暮らしを理解することなどできるはずがない。これまで、特別なことをしているつもりはなかった。あたりまえ過ぎて疑うことのなかったフィールドワークへの想いが、あふれている。(文・加藤文俊)

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100+20人の東京展(2019-2020 South編)
人・建築・都市を記憶する レンズ付フィルムによる写真展

  • 日時:2020年7月9日(木)〜9月17日(木) *開館時間は要確認
  • 会場:GalleryA4(〒136-0075 東京都江東区新砂1-1-1 竹中工務店東京本店1F)

*1:このテキストは、「100+20人の東京」展のパネル用に書いたものです。

カレーとともにあらんことを。

フォースシーズンがはじまります。

7年目をむかえたカレーキャラバン。“フォースシーズン”は、旅をしながら場づくりの実践をおこなっている人やグループとともに、カレーづくりをすすめてみたいと考えています。たとえばアカペラ、あるいはドキュメンタリー映画。もちろん、ほかにもたくさん可能性があります。結局のところ、場づくりというのはわりと単純で、じぶんたちの好きな〈モノ・コト〉を集めて、好きな人に声をかければ実現するような気もします。あとは、よろこんで時間を出し合うこと。
これまでの経験とつながりを辿りながら、これからも、いろいろなところに出没します。つぎは、あなたのまちで。 

  • 5月4日(金)岩手県陸前高田市
  • 5月6日(日)岩手県奥州市

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